the inner of Ti - COMICS

The inner of [Ti] - "FAMILY!"

Dear my『ファミリー!』

　この連休中、私の荷物の相当量を占めてしまっている漫画を整理・処分する作業を進めました。
　が、これまでもこういった作業を繰返してきているので、私のコンテナの中身は殿堂入り漫画ばかりで、整理なんてち～っとも進みません。　思い出深い作品の数々に、この連休はず～と読みふけってました。（←極めてありがち(^^)）
　そんな私の蔵書中、いちばん古ぼけたシリーズが、表題の渡辺多恵子先生の『ファミリー！』（小学館）でした。　…もう２０年近く前の作品になるんですね。

　基本的には一話読み切りというか、短編集的な形態と言える作品ですが、これがまたバラエティに富んだ題材ばかりで、当時にしては（今でも？）稀に見るストーリーテラーな作品だと思います。
　この辺りは読んだ人にしか解らないと思いますが、アメリカのテレビドラマや、アニメ番組的なメリハリがあり、それでいて要所要所で盛り上げる手法には、こころを鷲づかみにされます。　多分、そういった手法の先駆的な作品なんじゃないかな…、と昨日・今日で考えたりしましたが、まぁ、そんなことはどうでもいい。　心の支えになれるようないい作品なんですから。

　絵柄的には、こってり風なのにあっさり風のスッキリで、“漫画として”見事な位に洗練されている、実に読みやすいものだと思います。　しかも年々洗練されていく。　すごい。
　ちなみに、（私の感覚だと）先生はカラーイラストよりも、漫画の中のひとコマの方が魅力的な絵に感じたりします。　そんで、扉絵とかの一枚絵のセンスは、すっかり私の中に溶け込んでいるなぁ、とか。（←ある意味、目標だったり）

「すてきなお母さんだね　レイフ」
「どうも」
「うそつきだけど」
「え？」
「“女の子はスプリンターになれない代りに別のものを手に入れる”って
だってあの女（ひと）はヒールでだってスプリンターだもの　今だって走ってる
あたしもあんな女（ひと）になりたいな」

　さて、主人公（？）のフィー嬢（１５）なんですが、たぶん私の初恋の君(*^^*)だったんじゃぁなかったかと、今にして思います。
　快活で、単純で、お人好しで、乱暴で、優しくて、健康的な魅力大爆発な彼女に、子供心に憧れてましたよ。　ある意味、理想のオトコを見たような気持もあったかも。(^^;)
　そんで、今に至る私のショートカット属性の基点になっているのではないかと推測したりするのは…多分そうだろう。(^^;;;)

「ごめん！ごめんね　待っててくれたの？ずっと？」
「うん　まぁ…」
「四時間以上も…？」
「ん…　でもぼくも少し遅れてきたから五十歩百歩さ」
「ほんとに？どれくらい？」
「さぁ　八秒くらいかな」

　元祖・“色男だけど、惚れた弱みでちっとも報われないいい奴”のレイフ君（１７）には涙を禁じ得なかったりもしますが、仏様のような人徳のすごさに、やっぱり“理想の兄貴”を重ねてましたねぇ、子供心に。
　そんな彼らの姿は、（今のオレ的には）ラブコメのあるべき正しい姿だと信じてやみません。(^^;)
　家出してきた異父母弟、ホモ兄、マセ妹、おっとり美人ママ、お人好しパパ、バカ犬、恋人のホモ父、その愛人、離婚した恋人の母、事故死したその夫、ブルジョワばーさん、その不良メイド、留学生、刃傷美人転校生、恋する留年娘、マフィアの叔母、超能力先生、…　作品に登場するキャラクターの豊富さ、その存在感や必然性、そして自然さは、比類無いのではないかと思ったりもします。　ホント、スゴイよ。（そのイミでは、『いいひと』なんか、近いかも？）

　それにしても、言葉の使い方が見事というかスゴイというか。
　次々作の『はじめちゃんが一番！』で更に磨きがかかっていますが、作品の中で使われる言葉を抜き出したら、島本“燃えるっ！”師匠の『炎の言霊』シリーズとタメを張れるくらいの名言集を作れますよ、きっと。
　しかも、その言葉が話の流れの中で、台詞の駆け引きとして生きていたり、絵と一緒にスッと心に染みこんできたりするような…、あ～、もう、上手く言えないや。　兎に角、見事なんですってば。
　はっきりいってシリアスなシーンは、芝居がかった台詞回しだと思うんですが、こう、“芝居”という紋切型ではなく、もっと思慮の深い言葉使いで、言葉の後に感情がついてくるような感覚があります。（わかるかなぁ）
　この作品、私のボキャブラリ形成に極めて重大な影響を及ぼしている筈です、多分。(^^)

「…んで…？」
「なんで…こんな時出てくんの？」
「あたし…はひとりでも平気だって…」
「　　　　わかんない　…わかんないの」
「どうしてジャニスは…　どうして　　　　？」

　割とアットホームコメディだった流れの中で、８巻をまるまる割いた『ジャニス』のシリーズは、一話の中である程度収まりをつけてつつ、しかしエピソード繰り返すことで、話にどんどんと深みを増していくドラマの進め方もあって、なんというか、読んでいてかなりキツかったです。（ちなみに、この手法は、『はじめちゃんが一番！』の礼子さんのシリーズで、究極に活用されまくって、こちらでも私はイチコロでした。(^^;)）
　私は、（『ファミリー！』に限らず）渡辺多恵子先生の作品は、人と人との心の交流を真摯に描いているのが特徴（？）だと思っています。　決して、カッコよくないドロドロとした感情を、一生懸命に生きている人がぶつけてくる、そしてそれを一生懸命に生きている人が受け止めて、一緒に悲しんだり、励ましたり、あきれたり・・・、そういった喜怒哀楽が生き生きと描かれています。　はっきり言って、泣けます。

飲んだくれだったオフクロが
道端で野垂れ死んでいるのを見つけたとき
オレは足も止めずに通りすぎた
オレは思ったんだ
「バンザイ！　オレにまとわりついてた
忌まわしい運命はこれでくたばった！」

　そして、泣ける話の真骨頂は、１０巻の『時の絆』…犯罪者としてスラムに暮す親娘を巡るドラマでしょう。
　「神様って何だ？」
　そう無邪気に言う娘の姿に、残酷さが醸し出されて、やるせなくなります。
　結局は、育ての親が逮捕・投獄されてしまい、娘は保護司に引き取られることに。
　「泣かんでええ、泣かんでええ。」
　そう言ってくれる保護司の老夫婦に、もう滂沱するしかありません。
　実に奥の深いエピソードです。
　今の私は、未だにこの話を完全に理解できていないような気もしますし。

　愛しているのに、伝わらない。　幸せが近くにあるのに気がつかない。　沢山の出会いがあるけど、沢山の別れも有る。　決して皆が幸せになれるとは限らない。　そんなもどかしい世の中であるけれど、それでも、捨てたもんじゃない、って気持ちにさせられます。　一生懸命に、前向きに生きる人々の姿に、自分もかくありたいと切に願います。　大切な、大切な物語です。

　この作品の良さは、私の乏しい言葉だけでは語り尽くすことなぞ出来ません。
　とはいえ、単行本は絶版になって久しく、ワイド版が出てからすら既に８年が過ぎていますので、いまは文庫本のみが入手可能だと思います。
でも、
「少しでも多くの人がこの作品を読んでくれれば、日本ももっといい国になるのになぁ」
　そんなことを本気で思います、私は。　東京都知事選挙候補者の下らないパフォーマンスが話題になってますが（？）「愛読書は『ファミリー！』です」とか言えば、わたしゃ、一票入れるよ、マジに。(^^)　って、都民じゃないけどさ。

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